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見知らぬ場所を、流れる。

大学を出てから6年棲んだ街を歩く。

当時、工事中だった道が整備され広く美しくなっている。新しくなった山手通りを、私は何度見ても見慣れない。一瞬、どこにいるのかわからなくなる。ここは、見知らぬ場所か?

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昔棲んだ街、15年前から通ってきたRestaurantが旅立った。新しいオーナーに引き継がれ改装されたのだ。

恐る恐る中に入る。最初、落ち着かなかったそのモダンな空間は、ワインが進むうち、次第に懐かしい風景、記憶とマージしていった。

何故だろうと考えていると、カウンター越しに見知った食器棚、そこに旧店のソムリエが置いていった沢山のグラスやデキャンタ、エスプレッソメーカーがあることに気づいた。

 

この店は、私の過去を沢山知っていた。

若かりし日、落ち着きが無い私はやんわり諭されたこともある。転居した後も通い続け、大切な時間を過ごした。出版記念のパーティーの料理もこのRestaurantにお願いした。ほっとしたい時、大事な人と話したい時。この店を選んできた。

どんな風に大人はRestaurantで過ごすのか、Restaurantとのつきあい方をこの店に教えてもらった気がする。人に連れて行ってもらうものだったRestaurantが、自分で行く場所になり、次第に人を連れて行く場所になった。

 

Restaurantというのは面白い。いい店は人の辞め方が良い。今回は、旧店のソムリエとシェフという2人の辞め方に加えて、店の生まれ変わり方も絶妙だった。

その意図を、旧店のソムリエから聞くことができた。引き際の計算に圧倒された。リニューアル時に流れた留守電のMessage、引き継ぐスタッフ、そして、3つのスタート。

 信頼できる譲り手が見つかったからこそ、このような美しい展開があったのだと思った。これは終焉ではなく始まりでもなく、展開だった。そこには各々の人生があった。

 

猫は場所につき、犬は人につくと聞いたことがある。通常は人についていってしまう私だが、今回ばかりは、やられてしまった。場所に、新しいものが綺麗に流れ込んでいた。

 

思わずこう言った。

「これで行けるお店が3つに増えました。嬉しいです。」

彼は言った。

「そう言っていただけると嬉しいです。わかっていない方は、私が居なくなることを寂しいと仰いますが。この店はこうしてここにあります。」

 

いつになく饒舌な彼に、勇気をもらう夜だった。