演じる。

先生をやっています。

教室にはいると、チャイムがなるまでの数分、適当に荷物を広げたり、チョークを確認したりしながら、何も始めないで待って。チャイムが鳴り終わったら、学生の方を向いて言います。

 「こんにちわ」

 最初のうちはこれに返さない学生もいて、返さないなら返ってくるまで、繰り返します。そして、こっちを向いたなと思ったら、今日は90分間何をやっていくのかという説明を手短にして、その途中で私は「先生」になります。教室を出たら、もうスイッチを切っているので、私は先生だという意識はありません。教室が私を先生にするのです。

 

もう少し遡ると、家を出てから大江戸線に乗っている間は眠くて、京王線もだいたい寝ているんですが、多摩川を越える手前、調布あたりで目を覚まし、その日の仕事の内容を想起し、多摩川を見て心を洗われます。そして、そこから数駅の間で、私は大学教員になります。大学教員と先生とは、ちょっとマインドが違うんです。

 

私にはいくつもの舞台があって、その中でいろんな役を演じ分けています。そんな話をすると、「僕にも先生やってよー」って言ってくる大人のおともだちがいますが、それはできません。先生は学生のものです。

 

バーカウンターが向こう側の人を数割増しでキラキラさせて見せるように、私も教壇に立つと何か違って見えているのかもしれなくて、だから教壇には立たないようにしていますが。それでも、私は先生です。「先生ほらこっち」って、学生に手をくいって引っ張られて、今日はちょっとびっくりしましたけど。そこは先生らしさを、しっかり演じてやっていきます。