ワークショップの企画と「状況の想像」

本日のゼミで、ワークショップの企画時の思考についての話題が出ました。きっかけは、とある書籍の原稿執筆について、共著者である安斎さんが途中段階の原稿を報告し意見をもらうという機会だったのですが、私も関心のあるテーマだったのであれこれ考えました。私はこの8年の間、ワークショップの企画・運営経験がある人の思考過程について実証研究をいくつかしてきました。さらに、それ以外にも実践を見に行く、実践者に話しを聴くなど重ねてきました。もちろん、研究を始める前から、自分で企画・運営した経験もあります。

 

確かに、私が企画をする際、当日の「状況の想像」をしながら企画を立てるということを必ず行っています。これは多くのベテラン実践家も行っていることです(詳しくは研究をご参照ください)。さらに、先日、舘野さんが書かれたblog  "ワークショップ・デザインにおける意図の大切さ:方法におぼれないために"の中で言及されていた下の記述は、実証データとの関連でもしっくり行きます。

 

「これはある意味でいえば『学びの風景』を描くことでもあると思うんですよね。参加者の人たちがどんなかんじで動いてほしいかということを想像するということになります。その想像や意図みたいなものと『ワークショップ・デザイン』をうまく対応させて考える必要があると思うんですね。」

 

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一方、ワークショップの企画してみたい! 今してます! という人に役立つようにと考えると、もう少し踏み込んで考える必要があるのではないかと思いました。

 

経験が豊富な人は経験に引きずられやすいですし、経験がない人は想像がそもそもしにくいという問題があります。私が実践者にインタビューをした中では、経験の不足により状況の想像がしにくいという問題にぶつかった時、(1)経験者と協働企画することで乗り越えた、(2)書籍・見学・ヒアリングなどで多角的に情報収集し乗り越えた、という事例があります。

 

しかし、乗り越えた事例を分析しても、乗り越えていない事例を見たことにはならないというジレンマがあります。実践者を育成することを考えると、それだけではない何かがあるような気がしていました。

 

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そこで、ワークショップの企画では、「状況の想像」をやめる、という場合があるのではないかということに思い至りました。これまで知見としてはっきりと指摘できていなかったことに「想定の棄却」ということがあるのではないか、ということです。これは、コンセプトを立てている段階にも、実践直前にも、両方の時点で必要なことかもしれません。

 

ワークショップの企画における「状況の想像」と「想定の棄却」は、研究において、仮説をとどう付き合うか、にも似ている気がします。「状況の想像」と「想定の棄却」どちらも必要です。小刻みに周囲とのインタラクションがあり、思考が反復されてこそ意味があるのではないかと思うのです。その際、私の場合、かたちを創ることは重要です。文でもスケッチでも図でも模型でも。かたちになっていないと、思考を棄てにくいからです。※こうやって、流れるようにブログを書くことも、私が思考過程をかたちにすることの一貫ですし、思考を棄てるための手段だとも捉えています。

 

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想定を棄てないと、企画者はジャンプができません。恐れがあると発想が飛ばないのです。ですから、自分がいかに安心できるかということが、ワークショップの企画過程で重要な気がします。これはワークショップに限らず、新しいことを企てるときには鍵になることだと思います。

先日、『ラッパーの脳の秘密:実験結果』という記事を読みました。その中に書いてあったことが印象的でした。

 

わたしたちが目にしたのは、創造的でない活動の遂行に関連する脳の領域がある種のリラックス状態にあるということです。これにより、アーティストは周囲の環境に対して注意散漫になり、精神のフィルターや検閲を減らすことが可能になります。こうしたことすべては創造性を促進します」

 

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これまでの経験や今ある思考で制約をかけてしまわないために、「少しだけ」自分の中にある、ロジカルな部分の機能を麻痺させておく。あとで、ロジカルな部分から、もしくは協働者からの視点でチェックをかけていけば良い。

 

企画者・運営者の不安は、参加者に伝わりますので良くありません。当日は、想定できていないことがあることそのものが想定内、と考える必要がでてきます。つまり、想定できていないことを含めた、サーモスタットのような機能がワークショップデザインに入っている必要があるのではないかと思うのです。

 

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そうはいっても、「想定を棄却」するのはなかなか、習慣化しないと難しいです。私は、ワークショップの企画をする際、"状況の想像をし過ぎないためのいくつかの努力” をしています。

 

(1)企画時、「想像できる範囲」「想定できない範囲」を考え、切り分ける。

(2)どう転んでもいいよう、複数のパタン、分岐、複線を考える。

(2)わざと想定しにくい要素を入れ自分の「想定しようとする働き」を諦めさせる。

(3)参加者のことや参加者の学習ニーズを、事前に多く知ろうとすることをやめる。

(5)協働企画者との想定のずれを大事にし、敢えて埋めきらないまま許容する。