本を編むまで

嵐のような日のあとは、僅かでも1人の時間をつくり、自分を振り返っておきたいと思います。今日は、私が本を書くようになったところから、今までのことについてを。

 

私はこれまで何冊の本を読んできたか検討もつきません。他人の部屋に行くとつい本棚に目が行き、こっそり写メを撮りたくなるような人です。今でも父の書斎に行くと新しい本が増えていないかチェックしてメモします。

 

そんな私は、これまで6冊の本づくりに関わってきました。

 

初めて本に関わったのは大学院博士課程の時です。編者の方から、学会の選書原稿の依頼があったことを指導教員に話すと、少し心配されたことをよく覚えています。確かに、当時の私は乱暴な文を書いていたし、知識も無く、ときに配慮のない表現もし。私自身も、本を書くにふさわしい人とは思えていませんでした。しかし、子供の頃から、無二の親友だった「本」に関われるチャンスは、しっかり掴んでおきたかった。今思えばあの時の原稿は、書き直したいところだらけですが、あの時期の私に、さっとチャンスを投げてくださった編者の先生には、感謝の気持ちでいっぱいです。

 

次の本は、指導教員と後輩との3人で書いた本でした。出版計画のベースから関わり、どの出版社にお願いしたいかも考え、かつて斯く斯く然々の本があったここにしたいとアポをとり。この本は現在4刷になりました。教科書として、私だけではなく多くの方が使ってくださっていると聞き嬉しく思う反面、書くときはかなり勇気がいる本でした。著者の3人でもう少し議論をしながら本を編めたらよかったのですが、当時の私は自分のことでいっぱいいっぱいで。おそらく後輩もそうで。お互い博士論文も書き終わったわけだし、今ならもっと良い改訂ができるんじゃないかなとひっそり思っています。

 

博士論文を単著で出したときは、本づくりの醍醐味をフルで体験した感覚がありました。JSTから学術出版をする費用面での支援をいただいたこともとても励みになりました。書類作成を苦と思わなくなった転機でもありました。この本は、単著でしたので、思い出は様々あります。厳しい出版社だと思って、研鑽の機会と思い選んだスタートでしたが、編集者の皆様の温かみあるやりとりに、出版社の方は、私と同じく職人なんだなと共感しました。本が出た後、その本を我が子のように面倒みてくださっていること、感謝しています。

 

その後も学会の選書の依頼を2冊いただき、片方は進んでお引き受けし、片方は恐れ多いと思いながらも書かせていただきました。もっと頑張ればよかったなと思うところもあります。いつもその時は、これが限界、と思っているのですが。

 

そして、これまでの本づくりの経験を活かし、新しい計画を立てたのが、次回の著作です。6作目、はじめて、編著者となりました。最初は私に務まるかと不安もありましたが、これも成長の機会と思い、単独編者でやってきました。ようやく、ようやくオビ文言とか装丁とか、そういうところまできて、価格も決まり、本当にほっとしています。この期におよび、タイトルがやや変更(営業部からのコメントを反映)で、『「ラーニングフルエイジング」とは何か:超高齢社会における学びの可能性』となり、初版1600部、価格は税抜き2500円(税込み2700円)と決まりました。兎に角、少しでも値段を安くしたいとお願いし、当初ハードカバー縦書きを提案されましたが、ソフトカーバーを選択しました。文体もです・ます体ですし、横書きです。どんな年代の方にも持って重たくない、読みやすい本にしたいと思いました。

 

新刊を編むにあたり、さまざまな工夫をしてきたのですが、それは今まで関わった4冊の本における経験が活かされています。編者としてもっとも工夫した点は、研究会を運営したことです。

learningful-ageing.jp

これには、

・書籍の読者層を見極める

・内容のファンや支援者を増やす

・活動を可視化する

・対面の研究会を通じ未来の読者からコメントをもらい原稿に反映させる

・忙しい異分野の著者が対面で会えなくても研究会とその開催報告を通じて意識的に交流できるようにする

・もし著者にトラブルがあっても、研究会の講演全文字おこしがあればそれをベースにライティングを促せば原稿が落ちない

という意図がありました。

 

結果的に思っていた時期より1年も出版が遅れたことは、心苦しく思っているのですが、その改善案も考えているので、また、この経験を次回著作に活かそうと思っています。

 

今回、本の装丁は、フルコミットはできない条件を出されており、少し悔しかったのですが、最後の最後で、表紙の写真を、こちら側で選定することができるというチャンスが巡ってきました。もちろん、迷わず、このプロジェクト内でさまざまな写真撮影をお願いしてきた金田幸三さんの写真を使わせていただきました。この写真は、プロジェクトのHPのトップにも使っているものです。書店に並ぶ日が待ち遠しいです。

 

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私のやっている研究領域は、どうしても、概念の普及について論文だけに頼るわけにはいきません。私は、本はそこにいない人同士、時空を越えてつながることができるシンプルで偉大なツールであると考えています。そして、私は書店という場所の可能性も信じています。

 

いつか、こどもの頃にお世話になった、岩波ジュニア新書のような、小中学生も読みやすい本も書いてみたいし、ふらっと立ち寄った医療機関で手に取るような雑誌にも書いてみたいです。私は書くことが好きなので、書きたい気持ちをあたため、書く技術を磨きながら、チャンスを掴んでいきたいと思います。