泣けるいちご 

ふと思いだし、とある旧友と、最近よく話すようになった。

 

彼はバーテンダーである。私は彼が駆け出しだった時から知っている。

きっかけは、当時住んでいた家の近くのダーツバーだった。

ダーツもしないで深夜カウンターで本読みながら酒のことを勉強してノート書いている変な人がいた。

それで、声をかけて、仲良くなって、その店に行ってみるようになったという次第である。

勤務先のバーではなく、「近所のバー」で知り合ったということがポイントだったのだろう。

もう10年の付き合いである。今、彼は数店舗の状況をマネジメントしつつ、自分の店で2人後輩を育てている。

 

ダイキリを飲みながら「スタンダードカクテルもたまにはいいね」と言ったあと、彼に聞いてみた。

「ねえ。オリジナルカクテルって、どうやったら教えられるの?そもそも教えられるものなんだろうか?」

 

ちょっと予想していない答えが返ってきた。

彼曰く、どんなに練習してもやっぱり本番、お客様の前に出すのが一番の経験で、それに敵うものはないのだという。

「それは『君、つくってみなよ』って言ってくれるお客さんをどれだけ店が持っているかだと思うんだ」という答えが返ってきた。

カクテルとは「この1杯にお金出してやってもいい、おまえがつくったのなら飲むよ。」というお客様との了解があって成立している。

 

じゃあ(その新人の無粋なバーテンダーにも、たまには)一杯お願いしようか!と言う客をどれだけ持っている店なのか、ってことか。

 

「僕らもそういう年になっちゃったってことかねえ。玲奈ちゃん、もうここ数年で、僕は嫌われることを諦めたんだよ。」

飲食店で採用面接をしたり後輩を指導したりする、そういう中で、嫌われないことなんてありえない、と言うのである。

 

これが覚悟ってやつなんですかね。

 

「泣けるいちご」でカクテルつくってください。

隣の客がそんなオーダーをした。

「泣けるいちご、ですかあ(笑)」

便乗して、私も「泣けるいちご」を飲んだ。

 

「プランABC のBにしてみました。」とバーテンは言った。

ABC のアプローチとBと判断した理由を聞いた。ちょっと面白かった。

今度は、プランCを飲んでみたい。